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熊谷守一つけち記念館

 日本フォービズムの代表的作家、熊谷守一の作品を永久に保存・展示するためのプライベート美術館です。
 周辺環境は住宅が多い裏木曽の旧街道沿いで、今は廃線になった北恵那鉄道線の終着駅(下付知駅)のすぐ近くに位置しています。敷地の一辺は付知川に面し、川面から約12mの高低差があるため、とても眺望が開けています。景観的に突出しないよう大きな切妻屋根をかけて、軒先を低く下げて民家や土蔵と類似の「家型」に見えるようにしました。
 1階には2つの展示室があり、一方にはには有機EL照明を用いた独立展示ブースを設けています。2階には展示ケースを設えた展示室があって、墨彩画や書の展示にも対応しています。
 空調設備に頼らない安定した温度環境を目指し、コンクリートの躯体の外側に断熱材を設け、外壁部では通気層を設けてレンガを積んでいます。屋根は土蔵の鞘組屋根を模し、軒先から入った空気が棟部分で抜けるようにしています。前面の駐車場部分の地中には全長200mほどのクールチューブを埋設し、外気はチューブ内をゆっくり通っていく間に熱の受け渡しを行い、夏は涼しく冬は暖かくなった状態で空調機に送られます。
 仕上げ材料はできるだけ地元の優れた素材を使うことにしました。伊勢神宮に使われる東濃ヒノキで知られるように林業や木工が盛んな土地柄であり、天井ルーバーや受付・ミュージアムショップなどの家具はそれぞれスギとケヤキの無垢材を使い、拭き漆で塗ってもらいました。廊下等の壁は高山の左官職人による本漆喰金鏝押え。床や外構に用いた恵那錆(蛭川御影石)は白と茶がはっきり切り替わるのが特徴の石で、無駄なく使い切れるよう展示室を白で揃え、廊下などは模様貼りにしました。
 熊谷守一は自然・命・宇宙を描いたと言われ、風景から花・昆虫・小動物・裸婦まで、スケールを超えた様々なモチーフを独特なスタイル”単純化された輪郭線と平塗りの色彩”で小さな画の上に表現しています。建築もこの地の優れた素材と技術をもって熊谷守一らしい表現にしました。山の稜線や周辺の屋根並みを模した五寸勾配(10:5の角度)の勾配屋根(天井)の繰り返しは「単純化された輪郭線」、木製ルーバーやスギ型枠のコンクリート打ち放しの木目や漆喰のテクスチャーは「平塗り」をイメージしています。

用途:美術館

建設地:岐阜県中津川市付知町

構造・規模:鉄筋コンクリート造(壁式コンクリート造)地上2階建て

敷地面積:2159㎡

1階床面積:566㎡

2階床面積:251㎡

延床面積:817㎡

竣工年:2015年

建築設計:麻生建築設計事務所(麻生恒雄)+麻生建築設計工房(麻生 勉)

構造設計:多田脩二構造設計事務所

設備設計:環境エンジニアリング

施工:中島工務店

写真:川辺明伸

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